5. ルロイ・アンダーソンのおかげ (Thanks to Leroy Anderson)

私はアメリカの作曲家ルロイ・アンダーソンの愛すべき小品をよく人前でも演奏します。

20年あまり前東京のあるホールでカチカチになりながらリサイタルを催した時のことです。アンコールにこの作曲家の「The Forgotten Dreams」(忘れし夢)という曲を最後に弾きましたが、後日音楽学校の廊下で演奏会当日来ていただいたある同僚の先生にあの曲は何という曲ですかと聞かれました。私はとっさの考えでアメリカの作品ですと答えました。ルロイのことはそれほど音楽大学では知られていなっかたのです。でも、この記事をお読みになる皆さんはよくご存知です。

「トランペット吹きの休日」はヨーカドーで「シンコペイティド・クロック」はイオンで掃除の合図に使われているではありませんか。クリスマス商戦になれば街中「そりすべり」があふれかえり年末第九の「よろこびの歌」と競っていますよね。

私は50年近く前にこの作曲家が指揮した数少ないレコードを聞いて胸を打たれました。当時音楽大学のピアノ科を目指していつも先生に怒られながらピアノの技術の習得にあけくれていた私にとってまだ「好きな音楽」程度のものでしたが後年、ピアノ科の教員になり年月を経るにつれピアノの技術の手詰まりを感じ、奏法の打開を求めていた際に「シンコペイティド・クロック」のピアノ譜を手に入れ打鍵楽器で鍵盤をたたいたら音の減衰しかないこの楽器でどうしたらあのルロイの艶やかなメロディーが表現できるのか来る日も来る日も鍵盤と指の関係を単音のメロディーでしかもいくつかの音だけのつながりを見つめていました。何年もそんなことが続きました。その間も仕事としてのピアノのレッスンは待ってくれません。なにせ学生たちの無事な卒業までの責務を負っているのですから。なんとか実技試験に間にあわさなければならない中でなかなか大変な日々でした。

その頃同時に母校の中・高校でブラスバンドの指導もしていましたが、練習が終わると中学一年の楽器の初心者の子達にこの曲をいつも弾いてあげるとみんな喜んだものです。今思うと大変重要なことだったかなと思い返します。この作曲家の紹介はこれからもおいおい書いていきたいと思っています。