12. メロディーについて (About the melody)

今回はメロディーとテーマについてお話してみます。左の楽譜はバッハの平均律フーガ曲集の最初の4声のフーガですが、上の赤いラインがソプラノのパートです。テーマは青いラインで始まっていますが、順次他のパートでテーマが出てきます。インヴェンションに始まりピアノのレッスンではこの複音楽の扱いにおいては常にレッスンを受ける側が疑問を感じながらもうやむやになってしまっているメロディーとテーマの違いをお話しします。私も子供の頃から大人になるまでずっと疑問に思っていましたが、テーマを出せ出せはメロディーを歌うということとは同意語ではないのではないのかと感じていました。音量の強さはメロディーのラインを壊してはならないのではないのか こんなことをひそかに思っていました。前にもお話ししたある高名なドイツのピアニスト・オルガニストの教授にレッスンを受けることになったのでまずは3声のインヴェンションをお願いしました。この疑問を「メロディーとテーマは違うものでしょうか?」と聞いたところ即座に「ヤー!」(その通り)と答えが返ってきました。それからしばらくフーガについても教えを受けましたが、ベートーヴェンの曲についてもロマン派の曲についてもこの答えが自信になって演奏の幅の拡大につながっていったように思います。

このことはドビュッシーのエチュードの赤いラインとピンク色のラインの関係にもあてはまりドビュッシーはメロディーのラインを中世の教会旋法に求めることから始め晩年に書かれたこの曲集でも長調短調によらない旋律線を赤い線で描いています。内声部に強いラインのものが出てきても赤い線のメロディーは強弱を繰り返しながら連なっていきます。そして、細かく分析してみるとちゃんと和声学の裏付けが見えてきます。このことは後に譲るとしてこんな近現代の音楽でもメロディーは歌として曲の一番上のラインを飾っているのです。

これはみなさんご存じのブルグミュラーの「狩り」です。狩猟ホルンの左手が常に出てきて印象的ですよね。ここでも右手のメロディーライン(赤色の線」は微動だにしません。つまりバッハの作品のような多声部の楽譜と後年の単旋律の楽譜には共通のメロディーのラインがピアノを弾く人たちの道しるべの灯台になり続けているわけです。内声部やバスにいくら強い音量のものが出てきてもメロディーのラインは強弱を繰り返しながら曲の最初から最後までソプラノのパートで生き続けているのです。