長く生きていますと少ないながらもそれなりに歴史的名演に遭遇することもあるもので、そのいくつかの思い出をときどき思い出したように語ってみたいと思います。まず、一番強く思い出として残っているのがカール・ベーム率いるウィーンフィルの1976年の3月に聴いたNHK ホールでのベートーヴェンの「レオノーレ序曲第三番」の最後の部分です。それまで(あ~やっぱしウィーン・フィルの音はふくよかな優しい音色だな)なんてぼーっと聞いていました。ヴァイオリン群の緊張感のある音階に始まった瞬間は何が始まったのか理解できませんでしたが、次の瞬間ヴィオラ→チェロ→コントラバスと移って全合奏になったときには 何か巨大な時空に飲み込まれたような感じになり、そのあとコーダの全合奏の終わるまで今まで経験したことのないベートーヴェンの宇宙のすごさを目の当たりにしてベームの指揮とウィーン・フィルに圧倒されたのでした。
この日のプログラムはストラヴィンスキーの「火の鳥」1919版とブラームスの交響曲の一番でしたがよっぽどの名演だったらしく今はこの時の音源がCDとして販売されています。私もこの時当時はやりでしたオープンリール方式でエアチェックして今でも時々聞いています。この時ベームは70代の一番円熟したころで本当に良い機会を共有できたんだなと感謝しています。次の最後の来日公演はもう
アンサンブルにほんの少しゆるみが感じられたのが少し残念でしたが…。