ピアノを勉強する人々がやっと鍵盤に慣れてきだしたのにもかかわらず、特にペダルの併用を始めたタイミングの学習者が楽譜を読んでいく過程で大きな壁となって立ちはだかってしまうペダリングについてちらっとお話しましょう。
写真の左側にドンと居座っている黒い物体(ダンパー)はよく見てみると太い弦をしっかりと抑えていて響きが共鳴し過ぎないようになっています。これが普通の状態です。グランド・ピアノの場合、足の右のペダルを踏むとダンパーが上がって共鳴を許すので響きが広がり豊かな表現力を生むのです。よく見ると左側の方は低い音域に従い弦も巻き弦の一本になり強い張力で支えています。反対に写真の右側の高音域、厳密に言うと真ん中のC音から3オクターブめのFis音から上はダンパーはありません。従って例えばムソルグスキーの「展覧会の絵」の中の「殻をつけたひなの踊り」の高音域のトリラーなどはダンパーの掛かっているところが微妙なところなのでペダリングもそれぞれの個性が求められていますね。モーツァルトの頃のピアノのダンパーは鍵盤の下についていて膝を持ち上げてダンパーを弦から離す奏法だったので頻繁なペダリングは無理でした。
次に左足のソフトペダルのことについてですがこちらはグランドとアップライトは全く違う
コンセプトから来ているので簡単にお話します。まず、よく見えない写真ですみませんが、中音域の三本の弦を白いハンマーが下から打弦するのですが、左のペダルを踏むことにより右側にわずかにずれて二本の弦を打弦することによって音色の変化を表現する効果があります。当然音量もわずかに少なくなりますが、大きな目的は音色の変化だと思います。
これに対してアップライトの場合はハンマーと弦の間にキーカバー状の装置がおりてきて直接
ハンマーが弦を叩かないようにし音量を少なくすることが主な目的ですので同じ左ペダルでも
内容が大きく異なります。45年くらい前にリヒテルが初来日して夜の演奏会の準備に銀座のヤマハで公開練習をしましたがこれを見ていた私の先輩がソフトペダルを踏んだ状態でしばらくの間表現豊かに強弱をつけた演奏をしていたと驚いていました。当時私たちは左のペダルは弱音の為だけと思っていましたから驚きましたがその後ヨーロッパからの高名な教授にレッスンを受けた際にも、ソフトペダルを踏んだ状態で強いタッチを要求された事を思い出します。