30年程前になりますが、ウェーバージンケというピアニストでオルガニストでもある方が来日した折に何度かレッスンを受けることができました。思い出されるのは夜中に成田に着いて朝一番のレッスンが私でした。部屋の外で待っていると挨拶もそこそこに何の曲を弾くのか聞かれました。ベートーヴェンの32の変奏曲だと答えるとまだ弾いていないのに頼むから大きな音で弾かないでくれと言われました。(笑) バッハのパルティータもその日用意していたのですが、32の変奏曲で良いと言われましたので言われるままに弾き出しました。しばらくすると経験のない瞬間が現れました。隣のピアノで先生は何か別の曲を弾き出したように思いましたが、どうもそれは私の弾いているベートーヴェンの曲に寄り添っているようで進むにつれて20世紀初めのような響きで不思議な感覚にとらわれました。止まるわけにもいかず最後まで弾いてしまいました。(即興だったんですね。)
別の日にバッハの3声のインヴェンションを聞いてもらった時のことです。指使いのことで貴重な体験ができました。音符のラインを5の指の次に3の指さらには手の甲をひっくり返して2の指でつなげるというそれまで経験したことのない運指を当然のことのように要求されました。手の甲をひっくり返すようなピアノの弾き方をしたことがなく戸惑いましたが、手を柔らかくしてというよりも頭を柔らかくするというような奏法を身につけられれば、ピアノの鍵盤が身近に思えるようになりしめたものですね。先生がヨーロッパにお帰りになる前に送別会を何人かでイタリアン・レストランでやりましたが、その時奥様とパリで待ち合わせをしているとお話になったのを思い出します。おしゃれですね。それじゃと私はピンクの5枚入りの鳩サブレを差し上げましたが、飛行機の中で食べるよとおっしゃっていました。